3D内視鏡を使った鼻の手術
荻野です。今回は以前のブログ投稿でもお話していました3D内視鏡について少し話をさせていただきます。
2017年から、当院の内視鏡下鼻内手術の次元を2次元(2D)から3次元(3D)に変えました。
鼻の内視鏡手術というのは世界中で99%以上が2次元、つまり普通のビデオカメラと同じような方法で見ながら行っています。その当たり前であった方法を変えたというわけです。
副鼻腔は複雑な立体構造を持っており、また個人により構造の違いが大きいものです。
従来、鼻の内視鏡手術を行う医師は、迷路のようになった副鼻腔の中を前もって撮影してあるCTの所見と2次元の内視鏡による平面化した画像を元に、「本当はこんな形のはずだ」と立体構造をイメージしながら手術をしていました。3D内視鏡は一本の内視鏡の中に「右目」としての内視鏡、「左目」としての内視鏡の2本を仕込むことで立体視をすることができます。副鼻腔本来の複雑な立体構造を表現できますので、「こんな形のはずだ」とイメージするのではなく「本当はこんな形なんですよ」という映像を見ながら手術ができます。
より精確な手術操作を可能にする手術器械として、主に腹腔鏡手術の領域では急速に普及してきており、「3D腹腔内視鏡使用で約70%に手術時間の短縮、63%にエラーの減少」という報告もみられています。ただ、鼻の手術で使用する内視鏡の3D化は、腹腔内視鏡に比べ、細い径の内視鏡を作る必要があることなどから、中々実用に耐えうる内視鏡を開発しきれない状況にありました。
私は2010年に京都大学に勤務していた時に旧型の3D内視鏡が病院に導入されたので、当時の上司と一緒に内視鏡下副鼻腔手術、頭蓋底手術の際に使っていました。この3D内視鏡使用の経験については何度か学会発表(2012年耳鼻咽喉科臨床学会、2013年ヨーロッパ耳鼻咽喉科学会、日本鼻科学会)をしました。また、当時の研究テーマ「3D内視鏡を用いた内視鏡下経鼻手術におけるトレーニングモデルの開発」に対して内視鏡医学研究振興財団から研究助成をいただいたり、論文も書いたり(Efficacy of three-dimensional endoscopy in endonasal surgery. Auris Nasus Larynx 2015;42:203–207)と、3D内視鏡は私にとって大変思い入れの強い分野です。
旧型の3D内視鏡は安全性には問題の無い素晴らしい器械ではあったものの、太く(通常の内視鏡が4mm径に対して4.7mm径)、画質や明るさも2次元内視鏡に比べて劣っていたなど、いくつか使い易さに問題があったため現在京都大学での実際の手術ではほとんど使用されていません。 しかし、今回日本で新たにドイツ・カールストルツ社より発売された3D経鼻内視鏡は、太さ(4mm径)、画質が大幅に改善されました。元々、カールストルツ社の内視鏡はその質の良さから鼻の手術を専門とする医師に大変人気のある器械でしたので、この会社がようやく3D内視鏡を開発してくれた、ということは画期的な進歩と言えます。新しい3D内視鏡を用いた鼻の手術は当院が日本で初めてということになりましたが、以前の経験を活かすことができ、問題なく、スムーズに手術を始めることができています。
手術での副鼻腔の見え方は、やはり「別次元」です。
「本当の副鼻腔はこんな形なのか」と感嘆の連続です。(web上で実際の画像をお見せできないのが残念です)
ただ、3D内視鏡手術は、動かし方によっては術者の周りで3D専用眼鏡をかけて画像を見ている周りのスタッフが「3D酔い」をおこしてしまいますので、「酔わせない内視鏡操作技術」が重要になってきます。手術そのものには影響しないことなのですが、この点はまだ改善の余地があると思いますので、周りを酔わせないための工夫をしながら内視鏡技術を更に磨いていきたいです。